1 3年目6年生を担任して、初めての卒業式のこと。 

  私のクラスには、児童会会長のT君がいた。

  T君は、卒業式で「記念品目録贈呈」を行うことになっていた。

  練習では、T君が目録を持って入場し、目録を読み上げて校長に渡していた。

  本番用の目録は私が預かっていた。T君に

  「入場する前に、先生のところに取りに来てね」

  と言っておいた。

  卒業式の日、お互いに舞い上がっていたのだろうか。

  私は、目録のことなど完全に忘れていた。

  卒業証書を授与した後、記念品目録贈呈がやってきた。

  司会が

  「記念品目録贈呈」

  と言ったとき、私は血の気が引き、真っ青になった。

  「忘れた」

  と思った。校長は壇上に移動し、T君も壇上に進んでいく。

  私は、どうすることもできずに二人を目で追った。

  「記念品贈呈」

  とT君がはっきりとした声で言った。

  

  後で、校長からいきさつを聞いた。

  「T君が目録を持っていないのがわかった。小さい声で、目録と言うな、と指示した。

  たいしたもんだな」

  私は、校長の機転とT君の練習のたまものに救われた。

 

2 「とりあえず図工室を押さえておいてください」

  私が30代前半だった頃の話。

  当時、「七夕集会」という特活の行事があり、高学年は店を出し、低学年が訪問するという大々  

 的な行事があった。子どもたちも

  「今年はおばけ屋敷をやるんだ」

 と意気込んでいた。

  そんな子どもたちに

  「先生、おばけ屋敷をやりたいので、図工室をとってください。あとは、自分たちでやりますか

   ら。あと、準備に3時間ください」

 と言われた。その日が近づくにつれて、教室に段ボール箱がうずたかく積まれていく。保護者が車 

 で届けに来る子どももいた。

  さて、準備の日。子どもたちはその大量の段ボールを図工室に運び込み、おばけ屋敷の準備を始

 めた。

  「先生、用はありません。来ないでください」

  私は、図工室に入ることすら拒否された。

  危険がないようにだけお願いして、後はふらふらしていた。

  子どもたちだけで、見事に準備をして、当日を迎えた。

  私は、あのエネルギーはどこから生まれたのか、と思う。

  今、

  「任せるよ」

  という信頼だったのではないかと考えている。

  そんな幸せな経験である。

  

 

  

3 先生、職員室で待っていてください

6年生を担任していて、3月の末のこと。

「先生、2時間続きで時間をください」

とレク係が言ってきました。

「いいですよ。計画しましょう」

と返事だけしておいて、時間を設定しました。

前日

「レク係さん、明日の2時間は大丈夫ですか」

と聞くと

「はい、大丈夫です。」

と返ってきました。

さて、当日。

その時間になったので、職員室から出ようとすると、レク係から使者が来て

「呼びに来るまで職員室で待っていてください」

と言われました。

6年生を担任したときから、こういう子どもたちになってほしいと願っていましたので、それが卒業間際になって実現したのです。

それだけで、私には十分でした。

自分たちで、企画して、それを実現できるようになる。

この体験こそが、子どもたちを大人へと導くのだと思っています。

4 「法則化」されない子どもたち

30代前半の頃、「法則化」に見せられていた時期があります。

もともと、「法則化できるのは、7%程度」と言っていた「法則化」ですが、

「もっと指示や説明を改善していけば、みんなが分かるような授業ができるのではないか」

と信じていました。

クラスにいたAさんは、そんな私の思いとは裏腹に私の指示や説明が伝わらず、いつも個別に対応するようになっていました。

対応しているのですが、ずっとその子に関わっているわけにはいかず、少しの時間でも離れるとまったく違うことは始めてしまうような子どもでした。

「言っていることが通じない」

と感じていました。もしかしたら、特別支援が必要な子どもだったのかもしれません。

むごいことをしたと思います。

子どもを「法則化できる」と信じていたのですから。

「こうすればこうなる」

という図式に子どもたちを当てはめていました。

図式に乗らない子どもを無理矢理、図式に乗せようとしていたわけです。

自分のこうした態度に気付いて、本当に良かったと思います。

「法則化」を否定する気は全くありません。

むしろ、「法則化」が成し遂げた成果を尊敬していますし、今も使っている技術はたくさんあります。

しかし、「法則化」で解決できる問題は、全体の7%という初期の限界をしっかりと持ち続けほしいと思っています。

私は、自分から「法則化」から離れました。

その機会を与えてくれたのは、紛れもない子どもたちだったと感謝しています。

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